イルカが教えてくれたこと

どうしてもイルカに会いたくて、胸の奥がざわついて、そわそわと落ち着かない日々が続いていました。
そんなある日、光をまとう波の向こうから、静かにイルカたちが姿を現したのです。
まるで、長い旅の果てに約束された出会いのように。

待ち焦がれていたその瞬間、目の前の景色がゆっくりと色づきはじめ、私は夢中でシャッターを切っていました。
指先はかすかに震え、胸の高鳴りが静かな海に溶けていくようでした。
そのしなやかに泳ぐ姿は、まるで水そのものが命を得たかのようで、ただ見つめているだけで心が躍りました。

「イルカのように賢い」という言葉を聞くたび、どこか遠い存在に感じていたその生きものが、目の前で交わし合うしぐさやまなざしに、深い思考や感情をたたえているのを感じたのです。
その瞬間、心の奥からひとつの問いが浮かびました――「意識とは、いったい何なのだろう?」

私たちは、生命がどのように生まれ、どこから「心」が芽生えたのかを知ろうとしてきました。
原始の海から始まった細胞が、悠久の時を経て、思考する存在へと育まれていったという進化の物語。
けれど、それは数ある仮説のひとつにすぎません。
創発理論、量子の世界に潜む意識の可能性、そして脳の可塑性が紡ぐ新たな理解……すべてが、いまだ謎に包まれた旅の途上にあります。

そう考えると、あの澄みきったイルカの瞳の奥には、原初の海が宿した知恵と、命の記憶が静かに息づいているように思えてなりません。
そしてそのまなざしは、私たち人間が忘れかけていた、どこか懐かしい「始まりの記憶」をそっと呼び覚ましてくれるのです。

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